2016 R-1王者ザコシショウは勢いとテクニックを兼ね備えたお笑い理想像の一つの形
(画像引用:お笑いナタリー)
まずは、おめでとうございます!実に素晴らしいネタだった。
短いネタ時間なので、いまいち面白さが理解できなかった人が「勢いだけやないか」とか「純粋なネタで勝負して欲しかった」なんていうコメントがTwitterなどで散見されるので、ザコシショウのテクニックの部分、計算されたネタの構成を中心に、個人的な感想を書く。
テクニック1 ボケの詰め込み
まず、ザコシショウは優勝者インタビューで今回の戦略についてこう述べている。
3年くらい前は3分の中でモノマネ3個くらい入れてたら受からなかった。ほかのお笑いコンテストを見たら、ボケをいっぱい入れ込んでる。お笑いコンテストって時間の中でどれだけ笑いが取れるかってことだと思うんですね。
これは短いスパンでボケを連発し、観客をずっと笑わせ、脳を刺激し続けることで、すごく面白かったと感じさせるテクニック。M-1グランプリ以降、特にその傾向が顕著で、現在、お笑いコンテストではスタンダードとも言える基本戦略の一つ。
ザコシショウは今回のネタでも、非常に計算的なネタ構成によって、この基戦略を実現している。
例えば、「誇張しすぎた木村拓哉」のネタの中では、
・帽子を取る(毎回かぶりなおして、取るボケ)
・普通の木村拓哉の真似(普通じゃないというボケ)
・誇張しすぎた木村拓哉の真似(木村拓哉でもなんでもないというボケ)
と、約23秒の中で、3回のボケを入れてきている。
また、その次の「誇張しすぎたジャパネットたかた」は、そのフリップの前振りが既にボケ(天丼)になってる上、
・帽子を取る(天丼)
・普通のジャパネットたかた(ちょっと似てしまってるやんというボケ)
・誇張しすぎたジャパネット(誇張とかではないボケ)
と、ネタ構成によりボケの頻度をあげるテクニックを使っている。また、ネタの内容も単純な天丼だけでなく、ちょっとずつズラして、多層的な構成で飽きさせない。
これら、2つのネタ合わせると約48秒で、7回もボケを入れてきている。
テクニック2 分かりやすいトピックにして設定を省略する
また、勝利者インタビューの中でこうも答えている。
いっぱいコアなものを入れると(客が)離れていくんで、わかるようなものをチョイスしました。(中略)本当にわけがわからないモノマネもあるんですけど、それは排除して、コンテストじゃなくてライブでやる。コンテストはウケるものから入れていくんで、今日のやつは100%ウケるヤツを入れました。
分かりやすい単語を使って、分かりやすく話すことは、あらゆる話芸に共通する幅広い人からウケるための古典的な戦略。また、お笑いでは観客と共通認識のある設定を使うと、設定の説明を省略して、その分、ボケを詰め込めるというメリットもある。ザコシショウの今回のネタの構成を見てみると、
・やりつくされた森進一のまねをあえてやる
・誇張しすぎた木村拓哉
・誇張しすぎたジャパネットたかた
・やりつくされた長渕剛のまねをあえてやる
と、若干、年齢層高めではあるものの、いずれも、我々がすでに原型をよく理解しているものをチョイスしている。だからこそ、普通の○○といって、誇張されたモノマネをやり、誇張された○○といって、更にボケるという、ボケの回転率をあげるテクニックが実現できている。
勢いとテクニックの両立
ザコシショウは王道のお笑い戦略をとり、それを実現させるために、己が培ってきたもの全てを盛り込み、今回のネタを作り上げて来ている。言うは易しだが、実現することが極めて難しいことを、持ち前の勢いでやり切ったのだ。
モノマネやったらウケるので、これを伸ばそうかなと思って。3年くらい前から本格的にやり始めたんです。そしたら去年くらいからすごくウケて。コンテストで受かることが昔はなかったんです。出オチで30秒で笑いがしぼむ感じだったので、今の形にしてから笑いが取れるようになりました。
ただの勢い芸人だと言う人はいるけど、へこたれて勢いが無い日だって当然あっただろう。それでも続けた努力が、オリジナリティとも言えるほどの勢いとして実を結び、テクニックと両立できた結果が、今回の栄冠となったのだ。
ザコシショウにはネタを見ている皆が驚くような、きらめくような天才性は無い。運もあんまり無かったんじゃないかと思う。そんな中で、ここまで到達できる芸人が何人いるだろうか。
僕は、R-1王者ザコシショウに、
「勢いとテクニックを兼ね備えたお笑い理想像の一つの形」として、
素直な賞賛と尊敬を捧げたい。
どうもありがとう、素晴らしいネタだった。
※画像とインタビューの引用はナタリーから。いつもありがとう、ナタリー。